陸 その3
星空は白み始め、
温かかった缶コーヒーはとっくに空になっていた。
感情的になっていた俺も、
時間経過と冬の夜の寒さで、
少しづつだが冷静を取り戻していた。
俺は車内に戻ってシートを倒して星空を見ていた。
車は家の車といえば聞こえはいいが、
父親が毎日仕事で使う車。
だが、
今週末は休みだったので借りられたのである。
だんだんと明るくなり星空も輝きが減り始めたころ、
俺はそれまでの静止を振り切るかのように勢いよく起き、
車に火を入れる!
となれば、
かっこいいのだが、
車はディーゼルエンジン。
構造上、
セルを回してすぐにはエンジンがかかるとはいかない。
「ディーゼルは燃費はいいけど、イグニションをひねってすぐにてはいかないからな~」
と、
つぶやきながら、
車を少しアイドルさせている間、
帰り道用に缶コーヒーを買う。
ついでに身体を少し伸ばしながら
「このままじゃ何も変わらない!まずは帰ろう!」
と当たり前のことを心の中で叫び、
山を下り始めた。
結局、
昨日の朝から寝てないうえに車の暖房で眠気が襲ってくる。
眠気防止にと窓全開にするが、
あまりの寒さに歯はガチガチと音を立てる。
少し走ると、
程よく眠気も飛び身体も車も暖まってきて、
自然とペースが上がる。
「普段はバイクで明るい時しか走らないから気づかなかったけど、本当に真っ暗だな。車線も狭いし。」
と、
その直後、前方が明るくなった!
加えて、ほどよい排気音(エキゾーストノート)が!
バックミラーで見る限り、
ライトの位置、サウンド的にスポーツカーかなと勘ぐる。
俺の乗っている家の車は常時、
最低でも大人一人分の重さくらいの仕事道具が積んである。
「この先、道が広くなるからそこで譲ろう」と思っていたら、
背後の車は追い抜いて行くのであった。
「あっ!あれはRX-7のFCの方だ!かっこいいな~」
と思った俺は知らず知らずにペースが上がっていた。
しかし、
家の車は仕事で使う商業車、
ペースは上がっても、どんどんと離される。
と思っていたのだが、
RX-7も一向にペースが上がらない。
ひょっとして、遅いのかな?
バイク乗りの習性なのか、俺は追いかける。
「バイクなら、ぶち抜けるだろうけど、しょうがない。陸はそう思いながら車で追いかけ始めた。」
そして、
RX-7のエキゾーストノートを心地よく感じながらランデブーし、
いくつかのコーナーを抜けるころ、
「遅くはないけど速くもない」と感じた陸は、
追いかけ続けた先、広いコーナーで、勢い余って抜きにかかろうとする!
しかし、
さすがにこれにはRX-7も応じてはくれなかった。
そして、
陸はもう一段階ペースを上げてみたら、
RX-7もまるで待っていたかのようにペースが上がった。
しかし、家
の車は左右にロールするわ、
荷物は右往左往するわで、正直このペースが目一杯…
だが、
RX-7は明らかに速くなっていく。
今のペースでもやっとだったのが、
ジリジリと離され始めた。
これが、
本来スポーツカーのあるべき姿かと思う陸。
家の車は、
タイヤは泣き始める、
ブレーキも効きにくくなる
「これ以上はヤバい」と気づき、
ペースダウンする陸。
その後はRX-7のエキゾーストノートがどんどんと遠のいていったのであった…
麓で休憩がてら、
車から降りる陸。
「このすがすがしい気持ち、久々だな~。
バイクはいいけど、車も面白いかも。
それにRX-7かっけーな~。
俺も就職して金が貯まったらRX-7を買おう!」
そして、
趣味の力は偉大だなと思うと同時に男は単純だなと思いながら、
朝日を見つつ、家に帰る陸なのであった。
おしまい
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